うたのある生活

村上3

沿線に 雨中の桜 咲きにけり 昔かなえし 夢を数えつ

思ふどち 高き階 上りあへば 月へと続く 夜桜の宴

アニメから 卒業する日 君は立つ 世界を守る 使命を終へて

あなたが 罪を犯しそうになったら 何度でも 私が止める

自分など なくても今日は 変りなく 回ると知って 少し楽になる

忘れ果て 生れ変りし 君と会ふ はじめまして 罪とは別れ

雨宿り 君に会ふたび すれ違い キスだけするの やめてくれない

打つ雨に 心残りの 落されぬ 花と別れし 新緑の頃

金属を 曲げたるのみで 響きたる 神の楽器 夕さり吹けば

急ぐ子を 腹に守りて 運ぶてふ 銀のくちなは 地下ひた走る

たえまなく 天より落つる 雪時計 つもりし時の 二度と戻らず

どぢをして 多くの人を 笑はせむ 笑はれながら 人を助けむ

君とねる 約束をした 丘の上 雲は流れ 星の煌めく

「思ったより 多くの人が 見ています」 利用規則の やさしい言葉

脈拍を 上げれば楽し 脈拍を 下げれば悲し うたになるらし

感情は 残っているの 最期まで 私にふれて 笑ってほしい

物語に 生まれし人よ 末永く 幸せであれ 仲間とともに

うたのため はこぶ筆先 墨の香に こころをどりて いにしへしのぶ

くらやみに ただ手さぐりの 恋をして 目を覚ますたび ため息つきぬ

人生に 練習はない もう一度 やり直せない 本番だけね

あたたかく 私を守る 悪の闇 正義の光に 倒されないで

ばかだなあ また落ちてきて しまったの 上げてやるから もう来ないでね

カワサキの 黒いバイクに 乗っている 僕の彼女を 見つけて下さい

生きるとは 同じ時間を 過ごすこと 愛は行為 愛は微笑み

ひとりして 亡くなる人の 傍らに 祈りて看取る 女のありき

ひとはみな どこか欠けて いるような 欠片同士で つながっている

こどもは 愛を食べるの 腹いっぱい 愛を食べて 大きくなるの



太陽に 星の宴は かき消され 瞬きだけが 瞼に残る

これといふ 望みもないが この星が 豊かであれば よいと思ふ

制服で 新幹線に 飛び乗った 少女は家出か 仕事か旅か

一日中 風に揺られていました 洗濯物の 気持ちになって

あのとき 心にぽっかり あいた穴 吹き抜ける風 今は涼しく

彼方より 母なる海へ 還らむと 急ぐ雨音 空恐ろしく

丘の上 空はこんなに 美しく 古い団地に 風吹き渡る

つきあいは あっさりでいいと 教わって 心がすこし 楽になります

ありがとう まわりみちでも がんばれる 最初にあえた 君がいたから

電源を 切るに切れない 夜の虫 今日は何時に 寝られるだろう

手錠を かけられたまま 離れてく 罪を犯した 男と女

風かよふ わが家に集ひ 語りあひて みなで食べれば やっぱり美味い

太陽の 光あつめた ランタンを 魔法みたいに 持ち歩きたい

本番の 犠牲になる 日常でなく すべては同じ 価値を持った日

できるとき できることを できるだけ ひとりひとりを たどりに行こう

知らぬ間に また増えている 君の嫁 片づけている 私おつぼね

うろこ雲 美しいまま 列をなし 夕焼け空に 溶けていった

うそつきは 恋のはじまり 大切な あなたをおいて きてしまった

大勢の 人の手に自由をゆだね なすがままに させておく君

何気なく 流す涙も 染められて 真っ赤な秋に 遊ばれている

生きていると 言い切るほどの 気負いもなく 生かされている しあわせの国

私の 一番すきな 短編は いつも集の 題にならない

みそ汁の おかわりはないんだよねと きく痩せた子の あまりに悲しく

養って もらうだけでなく 働いて ともに生き抜くための契約

需要ある 業界に飛び込んでゆく 自分にやれる ことをやるため

ありがたく 甘い香りに 包まれて そのまま天に 召されそうな日

不可能と 思われていた ニーズを 実現させていく新しさ

三十五歳無職の語る未来を さえぎらず聴く 梅田構内

永代の 供養を頼む 寺の子は 父僧と喧嘩して家出中

終ったと 思ってたけど まだ何も はじめてなかった ことに気づく



抱きしめて 眠ったはずが 朝になると 跡形もなく 消えている君

夜更かしを 満喫しての 朝寝坊 二度寝の夢に しくものぞなき

制服の 戦士もいいが この頃は 世界を変える 大人が見たい

高校の 先生に夢で 会いました 先生ありがとう 先生お元気で

秋風は 息するように キスをして 私の隣 通り過ぎてく

「生んでくれと 頼んだ覚えは無い」などと 反抗しながら 甘えていた

「戦争は 政治の敗北だと思え」 軍人たちの 歌がきこえる

結婚後 覚えた趣味は おしなべて 君がいないと つまらない趣味

こころから 尽くせる主 見つけた日 夢をもつより 幸せかもね

習い事は ひとつかふたつ ごはんは お腹いっぱい 提供したい

静謐な 湖水の心地 私は 私でしかないという気持ち

「あなたなら きっと大丈夫だと思う」 保証はないけど 確信があり

尽しても 順調に忘れられていく そんな幸せな 母になれたら

おしよせる 不調の波に 子の無事を ただ祈る日々 明けては暮れる

愛し子よ 力のかぎり 長く生き 二十二世紀の はじまりを見よ

ふと鏡 のぞいてみると 老けたかな 使い込まれた 笑顔があるね

お母さん 人はしんだら どうなるの みんな思い出に 変るんだよ

天変地異 神さまだって 奪えない 私の中に 身につけたもの

親は子の 犠牲にならず 子は親の 犠牲にならぬ 世の中がいい

私には やりたいことが 何もない 夢に縛られぬ 自由もあるか

うちゅうに ひるはあるの うちゅうに よるはあるの あさはあるの

ひとりの男をひとりの女が独占するなんて もったいないね

男の子は 本当にゲームが 好きだねえ いつも何かと 戦ってるね

いろんなひとがいろんなことをいうね 「本当かな?」よくかんがえてみてね

ひこうきは ひかる十字架 輝いて 時代の空へ 吸い込まれてく



ぼくたちは 裸で愛を 語りあう 美がすべてを 支配する場所で

電脳の 中へ行きたい 肉体の 殻を脱ぎ捨て 楽に生きたい

遺伝子は 必要ないの この世界に あなたの意思を 遺しなさい

所有には 管理が伴う 所有には 愛と憂いと 刺激が伴う

愛している どこで何をしていても 誰といても 愛している

子がぐずり ぐずりやまずに 母も泣く 神経質な 泣き虫母子

赤ちゃんは いつか泣き止む 泣き顔も 笑顔もいつか 思い出になる

病院の 冷めた食事が 好きでした われない器に 薄味おかず

ふしぎだね みんな赤ちゃんだったのに 昔を誰も 覚えていない

幸せは つねに足もとに 咲いていて 気をつけないと ふんじゃうんだよ

死なないで 時を止めないで 周りの人の可能性を止めないで

子育ては 責任重く 手探りで どの仕事より 難易度高い

泣くたびに 抱いてあやして 午前二時 愛は諦めに 少し似ている

この敵は 昔の仲間 戦って 猛るたましい 鎮めてあげる

何かを するより先に 今ここに ここにいることに 集中してみる

天国で 大型バイクに 乗るんだよ 幸せそうな 君の微笑み

天国で 楽しそうに 仕事する 君の姿を 夢に見ました

赤ちゃんが 寝ている間に 泣きましょう 起きてる間は 笑いましょう

正幸の 名を書くことが へっていく 彼はたしかに ここにいました

君の死に 悲しみゲージ 振り切れて 滑稽ですらあると思った

天国でも 私を見つけて下さい また私を 見つけて下さい

お土産の クッキーの箱 ひしゃげてた 痛かったね 今までありがとう

あなたの 帰る場所は もうここでは ないと分かった 遺品整理

人をひかず 人にひかれず 胸を打ち 微笑んだまま 亡くなった君

夕暮れに 君が最後に 見たものが 明日への希望で ありますように

自転車で 婚姻届 出しに行く 2006年7月8日

争いを とめる側に なりたくて やさしい君が 大好きでした



いつの日か バイクを買って 正幸の ヘルメットして ゆっくり走る

へんてこで 失敗ばかり するけれど こんな自分が けっこう好きさ

ロボットを ローンを組んで 買いたいな 歩くために 働くために

これまでの 過去も名前も 忘れはて やさしくされる 幸せなひと

わたしを 見つけてくれて ありがとう 天国でまた 会えるといいな

ほしいのは 弱さを隠さない心 自分の弱さと 向き合うつよさ

熱心に 親を求めてくれる時期 長くないから 楽しくやろう

どんなこと 思っているか きかせてね 君の気持ちを ゆっくりきくよ

赤ちゃんは 歩けることを 知っている 自分にできる ことを知ってる

赤ちゃんは どのおもちゃより 人が好き いろんな人と 遊びたいんだね

おっぱいを 飲んでくれて ありがとう 大きくなってくれてありがとう

誰かの 望むとおり 生きなくて いいんだよ君の 人生だから

神さまは 手出しをしない 天才ね 好きにやらせて 調和している

大人とか 職場の人の いうことは 半分くらい きけばいいのよ

赤ちゃんは 母におしえてくれました 愛と勇気と 信じるこころ

帰り道 帰らぬ人となりし夫の スマホに残る 砂丘の写真

つらかった 楽しかった 変だった 幸せだった 君との暮らし

十年目 三十一で 死んだ夫 あなたは私の 青春でした

日常の 延長みたいな 夢をみる 消えた君との 暮らしの続き

楽だけど 寂しくなるね 君のこと 介護しなくて よくなっちゃった

「扇風機に ずっとあたると 死ぬんだよ!」真剣にけんかした青い夏

何もかも 燃やして灰に なっちゃって 君は元素へ 還っていった

君となら 笑顔になれた 君にだけ 言える弱音と 本音があった

もう二度と 戻らないなら ヘルメット ごしでもキスを すればよかった

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